never let me go.
2011年 04月 08日

けっこう前なんだけど、
松尾たいこさんのイラストにひかれて買った文庫。
わたしを離さないで
カズオ・イシグロ
あえてあらすじ情報を入れず、不思議な出だしからずっと
続く「よくわからない」物語を読み進めました。
ちょっと前の現代、主人公のキャシーの語りで
始まります。読むとすぐに出てくるのが
「提供」「介護」。
よく知っている言葉なのに、それがなんのことかは
明かされない。
静かに、たんたんとした独り語りはやがて思い出話に。
どこか特別な寄宿舎で育った子ども時代の思い出。
どうやらこれは私たちの生きている現代の物語ではないようです。
読後の感想は、しっとり。かな。
静かに、でも強く吹き抜ける風を受けた後のような
じんわりとした感覚が残ります。

本どくとくの空気感。
映画化と聞いて、これはぜひ観たいと思いました。
子どもたちの暮らしたヘイルシャムとはどんな建物だろう。
こわい森は?
トムが描いた絵というのは実際どんなん?
という、原作で想像だけだった世界を映像で観てみたいというのも
あったんだけど、
正直、
これをどう映画化するの?面白くなるの?
という素朴な疑問で観に行きました。

原作で結末を知っているので、
まず、寄宿舎のたくさんの子どもたちを観て
圧倒されました。そうか、これだけ子どもたちがいたんだよね。
キャシー、トミー、ルース。
幼なじみの三人を演じたのはいずれも若手の演技派。
こないだ観たばかりの「ソーシャルネットワーク」で思いっきり
存在感のあったアンドリュー・ガーフィールド。
あ、あのときやってみようかな?なんて言ってたフェイスブック、
まだ手つけてないや。
驚いたのはキーラ・ナイトレイ。
主役じゃないんだよ。

原作のルースの印象をさらに深いものにしたのは
キーラの力量。ルースへの感情が増しました。
実は彼女の出演作では思いっきりラブコメの
「ラブ・アクチュアリー」が好きだったりするんだけど。
原作に描かれた以上のルースを演じて、最後まで
揺さぶってくれましたよ。

主役のキャシーを演じるキャリー・マリガン。
アカデミー主演女優賞ノミネートの「17歳の肖像」を
観てないので、ほぼハジメマシテでした。
いや、ぴったりだった。キャスだった。
彼女の涙の演出、なんだろうと思ってパンフレットを読みました。
往年の日本映画の女優のようだとあり、納得。
とにかく、静かで抑えた演出です。
原作を読んだ人には、原作で描かれなかった部分の補足にも思え、
別パターンにも見える脚色。
おお、そこはそうして、そこを残してるのか。
ついつい比べてしまうけど。
ちょっと忘れて映画の世界にひたってください。
制作総指揮に原作者が入っているので
原作と映画の違和感はないように思います。
同じ物語を角度を変えてのぞいて観たような。
映画も静かなら、原作もたんたんと語られます。
ものすごい空想世界が描かれているのに。
だから読後はこちらまで静かに本を閉じ、
松尾さんのカバーを眺めました。
これ、イラストレーターが心を打たれた作品を描いた
プレミアムブックカバーでして、
別に、
本来のカバーというのもあります。
それが、
キャシーが宝物にしていたカセットテープが写っている装丁。
その装丁を本屋で見たとき、
ちょっとだけ本のフラッシュバックが起きて
泣きそうになりましたよ。
ええ、紀伊国屋で泣いたりはしなかったけど。
たんたんと終わった記憶を動かされた感じ。
装丁ってチカラあるなあ。
by etobunsha
| 2011-04-08 19:07
| ネタバレのない映画評